ダイアルは回らない

当時35歳 思考

夜中に突然疑問に思い、いろいろ調べてみた結果、1つの結論にたどり着いた。同じことを主張する文章が見当たらないので少々不安があるが、多分間違ってはいないのでひとまず公開し、識者の反応を待つとしよう。

さて、ダイアルと聞いて何を思い浮かべるだろうか。30代より上の世代ならまず電話だろう。若い世代はダイアル式の電話など映画でしか見たことがないかもしれない。ちなみに英語では今でも dial という動詞で「電話をかける」の意になる。回さないのに変なのって、まあこの辺はよくある豆知識だ。

とりあえず電話の話は一旦忘れて、電話以外のダイアルを思い浮かべてほしい。ラジオのダイアルとか、これも古いか。ダイアル式南京錠とか?これはまだ現役だろう。

思い浮かべた上で、 dial で画像検索をかけてみるとびっくりする。時計の文字盤がたくさん出てくるのだ。おやおや?慌てて dial で辞書を引くと「文字盤」とある。 dial には文字盤という意味もあるのか。英語をよく読む人ならこの辺もまあ豆知識といったところだ。

さてここで、もしや、と思い、 radio dial で画像検索をすると、いよいよ本質に迫る。先ほど 「dial には文字盤という意味もある」と書いたが、これは正しくない。より正確には「dialは本来、文字盤という意味」なのだ。

そうなのだ。日本に電話が入ってきた時に、「ダイアルを回す」という慣用句が生まれた。これが全ての間違いの元だったのだ。実は dial は回らない。回転するパーツの下に刻まれている文字の方が dial であり、指で回しているアレはダイアルではない!

なんとなく、指でつまんでぐるぐる回すもの全般をダイアルと呼ぶような気がしている人は多いと思うが、これは完全なる間違いだったのだ (私も昨夜突然気付いたのだが)。ラジオの dial といったら、つまんで回す部分のことではなく、周波数の書かれた部分のことだ。ダイアル式南京錠を英語で dial lock と言っても通じない。 number lock と言わねばならない。ちなみに dial lock というのは別にあって、番号式の金庫についているアレの事だ。もちろん、ここで dial が指しているのは回転するツマミ部分ではなく、その周りにある「文字盤」のことである。では、指で回転させる部品 (昨夜までダイアルだと思っていたもの) は英語で何と言うのか? knob もしくは handle と言えばだいたい通じるはずだ。

回転式電話の、回転する部分のことはなんというのだろう?もはやこの先役に立たない知識だが、気になったので調べたところ、英語版 wikipedia には "finger wheel" とあった。ホイール、車輪である。なるほど。

dial の語源は day や diary と通じており、元々は「日時計」の意味だったそうな。日時計というのは、日の当たるところに棒を立てておき、その周りにぐるりと目盛りを刻んでおくと、棒の影が現在時刻を指し示す、という便利な道具だ。これがアナログ時計の文字盤を指す言葉となり、電話の文字盤を指すようになった。日本に電話が紹介された時に、きっとこんな会話があったのだろう。

"What is this?"

"This is a dial."

この通りの会話ではなかったかもしれないが、おおよそ近いやりとりがあったのだろうと思われる。 (全くの余談だが、トランプという単語が恐らく似たような誤解で広まってしまった、というのは奇術愛好家には有名な話。)

「ダイヤルMを廻せ!」という邦題の有名映画がある。 原題は "Dial M for Murder" で、「スはスペースのス」的なちょっとした言葉遊びなのだが、当然のことながら「廻せ」に該当する単語は含まれていない。ところで dial を「電話する」の意味だけに捉えると、この原題は「殺人者のために(?)電話しろ」というような命令形の意味合いになるが、 dial を文字盤だと思ってもう一度読むと、また違った雰囲気が出てくる。 Mというのは電話の文字盤の6の事だが (これは英語圏では常識) "Dial M" というのはこの 6 の数字の箇所をピンポイントしている名詞とも見えてくる。映画のオープニングタイトルを観ると、むしろこっちの解釈がぴったりなのだ。

ちょいちょい脱線して長くなったが、とにかく結論は「ダイアルは回らない」。今後電話に関してはダイアルを回す、ではなく 「ダイアルする」、ツマミ類に関しては「ツマミを回す」ないし「ノブを回す」と表現するようにくれぐれも注意して生きていきたい。

小林明子?よく知りません。