数学志向

当時22歳 学部4年生 思考

数学がなんの役に立つか?

数学嫌いの人の多くが、自分を正当化するために挙げる理由のひとつがこれだ。微分積分なんか知らなくても、生きていける。その通りだ。正しい。しかし、それは、外から見た数学であって、本当に数学を理解している人には、数学はもっともっと重要な意味を持っている。

たとえば、2、という数字がなにを表すのか、考えたことがあるだろうか。2は、実在しない。2つのりんごと、2つのみかんと、2つの柿があって。その共通点として、2という数字が使われる。2は、世界のどこにも実在しない。けれど、誰もが理解している。

たとえば、次元 という概念がある。われわれの住んでいる世界が3次元。紙の上が2次元。紐の上が1次元。じゃあ、4次元って、なんなのか?数学を知らない人は、ドラえもんとか、時空とかいう言葉の影響で、ああ、4次元目は時間軸なのか、みたいな納得をして、それで終わってしまう。しかし、ある程度数学を学んだとき、4次元という概念の本当の意味が理解できる。そして、どうして3次元世界の僕たちが4次元をイメージできないのか、その理由も理解する。

その瞬間、世界が開けるのだ。

カルチャーショックという言葉がある。自分にとってあまりに常識過ぎて、身近すぎて、認知すら出来なかったものが間違っていたというショック。4次元目だ。

自分の言葉で一生懸命説明しても、相手に伝わらない。突き詰めていくと、お互いに当たり前と思っていた部分が間違っていた。4次元目だ。

しらみつぶしに可能性をつぶしたつもりなのに、他人がちょっと考えて打開策を出してくれたりする。なんで気付かなかったんだろうって、悔しがる。4次元目だ。

4次元目を理解した時の驚き。同じ驚きが、世界のあらゆるところにあって、それがすべて同じ驚きであることに気付く驚き。そして、そうやって世界を抽象化して整理する能力こそが、数学。

世界のあらゆるところに方程式がひそんでいる。微積分がひそんでいる。虚数が、カオスが、フラクタルが、記号論理が。そしてその概念の持つ特徴が極めてクリアに見える。2 という数字と同じくらい。それが、数学者が見る世界。

とある文系人間のこんな批判を耳にしたことがある。「理系人間は世界を単純化しすぎる」たしかにそうかもしれない。数学的に考える人間は、単純化するのが好きだ。共通点を見つけるととても嬉しくなる。しかしそれで、理解したような気になってしまうのは、陥りやすい罠かもしれない。

そこでさらに考える。ちゃんと4次元を知る前に、4次元を理解したつもりになっていたときの自分と、4次元を理解して、世界の沢山のことが急にクリアに見えて満足している自分。似ているじゃないか。そっくりだ。分かったつもりになることの愚かさ。そうとも。まだまだ僕の知らない次元がいくらでもあるのだ。

そうやって、極めて抽象的な感覚の存在を、予測することが出来る。その能力こそが、数学だ。

どうして9から10になるとき一桁増えるの?

どうして四則演算は、4種類なの?

言われてみれば、不思議でしょ?数学者は、その疑問を発見することが出来る。あらゆるところに未知の疑問があることを知っているから。常に目を光らせているから。見つけるのが、とても楽しいから。

「その程度のこと、数学なんか知らなくたって考えたことあるよ。」そうか。君はきっと頭が良いのだね。数学を学ばずに、数学的思考力を身に付けることが出来たのだから。君には数学は必要ないかもしれない。でも、頭の良い君は、君の理解のレベルよりも、数学者の世界がよりクリアである可能性を、否定しないね?

さて、この議論がどうどうめぐりなのに気付いただろうか?分かったつもりになって、また別の見方に驚かされて。でも決して同じところを回っているわけではなくて、らせん状に登ってゆく感覚。無限の階層構造。

その無限の階層構造さえ!数学者は紙と鉛筆で操る。無限を記号1つで表す。無限にも、いくつかの明確に違う種類の無限があることを、数学者は知っている!!そしてなにより素晴らしいのは、無限の種類は有限だということ。そこで階層構造が終わっているということ。こんなに素敵な真理を、君は知っていたか?ああ、この優越感!!

そして次の瞬間にこの優越感を否定してくれる数学から、僕は人生を学ぶのです。

同じことを学ぶのに、数学は必ずしも必要ではない。むしろ遠回りじゃないか、と、君は思っている?そうかも知れないね。そんなこと、知ってるよ!でも知らない。僕は数学者だけど、僕は人間だから。

つまりね、数学者もとっても人間らしいってこと。数学嫌いだからって、数学者を嫌わないで欲しいな。(気持ちはわかるけど。僕も小さいころ、苦いピーマンを売ってる八百屋のおばさんがどうしても好きになれなかった。嘘だけどね。)

実はそれが一番言いたかったの。最後まで読んでくれてありがとう。こんな文章を書く僕は、数学志向の、Tricker。